大判例

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東京高等裁判所 昭和54年(う)2102号 判決

一 所論は、原判示第一及び第二の各事実に関する本件各起訴状には、「被告人は、かねてから行田地区電気工事業者間のボス的存在として、埼玉県行田市等発注の電気工事につき、その入札前に指名業者間の談合を主宰し、入札を自己の意思のままに左右したり他の業者に不当な圧力を加えて工事の請負を断念させ、更には工事を落札した業者に言掛りをつけて金員を交付させ、意に従わない業者に対してはその業務を妨害するなどの横暴を常とし、地元業者らから畏怖されているものであり、相被告人小澤文夫は、被告人の実弟で、博徒稲川会八木田一家に属し、傷害事件等で服役した経歴を有し、被告人が前記のとおり工事入札等に関し他業者に圧力を加える際、これに協力して相手業者に対し強談威迫等の行動に出るため、被告人同様同業者らから畏怖されているものである」旨、被告人兄弟の性格、経歴、日頃の所業等に関し、裁判官に予断を与える事項が執拗なまでに反復して記載されているから、本件各公訴の提起は、起訴状一本主義の原則に反しいずれも無効であり、原審は実体審理、判断に至るまでもなく公訴棄却の判決をなすべきであつた、というのである。

そこで、考察するのに、起訴状に公訴事実を記載するに際し、犯罪事実とは何ら直接の関係がないのに、ただ被告人の悪性を強調する目的で被告人の性格、経歴及び素行等に関する事実の記載することは、起訴状一本主義の原則に違反し、もとより許されないところであるが、本件各公訴事実は、被告人兄弟が共謀のうえ行田市発注の工事の入札に参加した他の指名電気工事業者に対してなした恐喝及び威力入札妨害を訴因とするものであるところ、本件各犯行において被告人兄弟が金員の要求ないし談合強要のため被害者両名に対して申し向けた言辞は、被告人兄弟の性格、経歴、日頃の所業等の記載とあいまつて、脅迫文言としての具体性、現実性を明らかにし、ひいては、右記載が被害者両名の畏怖内容を特定しかつ明確化するのに役立つていることが、各公訴事実の記載自体に徴して明らかであつて、本件各起訴状の記載中所論指摘の部分は、いずれも各公訴事実の訴因の内容を具体化し明確化するために必要であるといわなければならないから、所論主張のようにこれが起訴状一本主義の原則に反する記載であるとは認められず、従つて、起訴状の余事記載を前提とした本件起訴手続の無効を主張する所論も、その前提を欠き採用することができない。

二 所論は、更に、原判決は、同判示第二の威力入札妨害の犯罪事実の摘示において、同罪の構成要件要素をなす「入札ノ公正ヲ害スヘキ行為」につき具体的にその内容を判示していないから、刑訴法三三五条一項に違反し、理由不備の違法を犯すものである、というのである。

しかしながら、刑法九六条の三第一項にいわゆる「入札ノ公正ヲ害スヘキ行為」とは入札に不当な影響を及ぼすべき行為を指称し、しかも、本罪は危険犯であつて、入札の公正を害すべき行為が行われたときには直ちに完成し、その行為の結果現実に入札の公正が害されたことを必要としないから、右犯罪事実の摘示においてはその行為のみを判示すれば足りるものと解されるところ、原判決は、被告人が、埼玉県行田市が競争入札に付することを決定した同市上水道向町浄水場ポンプ室増築工事のうちの電気関係工事につき、自己の経営する小澤電気においてこれを落札するため、他の指名業者である株式会社行田電設(代表取締役石川勝美)外二社の関係者である石川勝美外二名と談合しようとしたものの、右石川において行田電設が落札することを希望してこれに応じなかつたため、同人に対し原判示の脅迫を加えて、前記工事を小澤電気が落札するとの談合に応じるよう要求した行為が、取りも直さず「入札ノ公正ヲ害スヘキ行為」に当たる旨判示しているものであることは、その判文上明白であり、もとより右判断は正当であるから、原判決には所論のような理由不備の違法は認められない。そして、所論のように、「入札ノ公正ヲ害スヘキ行為」には、同条二項の不正談合罪の処罰規定との関係上談合行為を含まないと解するにしても、右のように、被告人の本件行為は脅迫を加えて自己の意に叶つた談合に応ずるよう要求した行為であつて、談合行為自体ではないから、同項にいわゆる談合行為として処罰される対象には含まれず、同条一項の「入札ノ公正ヲ害スヘキ行為」というに妨げないことは多言を要しないところであり、論旨は理由がない。

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